2018年を振り返る(読書)
カール・シュミット『独裁』
民主主義的に義論を交わしていたのでは、企業に必要不可欠の迅速な意思決定は不可能、あらゆる企業は多かれ少なかれ”独裁“体制でなければ生き残っていけないんじゃないか ー そう言う仮説のもとで手に取った本。カール・シュミットは、ナチスへの関与も含めて国家の統治を語る上では色々と問題の多い人だと思う一方、企業の統治を考える上では極めて有用な著述家だと思ってる。たった一人の人間(専制君主)による独裁だけでなく、複数の人間(委員会)による独裁についても詳述されていてたいへん勉強になる。樋口範雄『入門・信託と信託法』
- 作者:樋口 範雄
- 出版社/メーカー: 弘文堂
- 発売日: 2014/04/21
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
ハーバート・A・サイモン『システムの科学』
- 作者:ハーバート・A. サイモン
- 出版社/メーカー: パーソナルメディア
- 発売日: 1999/06/12
- メディア: 単行本
その他、ふと思い立ってドラッカーの本に手を出したり、サッカーや軍隊の戦術本をかじったり、長らくご無沙汰していた社会学の勉強を再開したりと、普段読まないようなジャンルの本に挑戦した一年だった。マンガについては例年通りで特筆すべきことはなかったと思う。
2018年に読んだ本(全33冊)
著者 | タイトル | レート |
---|---|---|
ヱクリヲ編集部 | エクリオ vol.7 | ★★★☆☆ |
山口文憲 | 読ませる技術 | ★★★☆☆ |
石黒圭 | 文章は接続詞で決まる | ★★★☆☆ |
斎藤美奈子 | 文章読本さん江 | ★★★★☆ |
千葉雅也 | メイキング・オブ・勉強の哲学 | ★★★☆☆ |
松村劭 | 戦術と指揮 | ★★★☆☆ |
稀見理都 | エロマンガ表現史 | ★★★☆☆ |
ジャック・デリダ | 赦すこと | ★★★☆☆ |
前田鎌利 | 社内プレゼンの資料作成術 | ★★★☆☆ |
武地一編著 | 認知症カフェハンドブック | ★★★☆☆ |
高橋政史 | すべての仕事を紙1枚にまとめてしまう整理術 | ★★★☆☆ |
山本芳久 | トマス・アクィナス | ★★★☆☆ |
バルタザール・グラシアン | 賢者の教え | ★★★☆☆ |
マイケル・ハマー | リエンジニアリング革命 | ★★★☆☆ |
山本七平 | 日本的革命の哲学 | ★★★☆☆ |
ルイ・アルチュセール | 哲学においてマルクス主義者であること | ★★★☆☆ |
浅井千穂 | 入門TA | ★★★★☆ |
大井玄 | 「痴呆老人」は何を見ているか | ★★★☆☆ |
井筒俊彦 | イスラーム哲学の原像 | ★★★★☆ |
ハーバート・A.サイモン | システムの科学 | ★★★★☆ |
河合保弘 | 家族信託活用マニュアル | ★★★★☆ |
野中郁次郎 | 知的機動力の本質 | ★★★★☆ |
五百蔵容 | 砕かれたハリルホジッチ・プラン | ★★★☆☆ |
ミシェル・フーコー | わたしは花火師です | ★★★☆☆ |
塩野七生 | マキアヴェッリ語録 | ★★★☆☆ |
P.F.ドラッカー | ドラッカーの実践マネジメント教室 | ★★★☆☆ |
樋口範雄 | 入門・信託と信託法 | ★★★★☆ |
五百蔵容 | サムライブルーの勝利と敗北 | ★★★☆☆ |
三谷宏治 | 経営戦略全史 | ★★★★☆ |
岸政彦他 | 社会学はどこから来てどこへ行くのか | ★★★☆☆ |
カール・シュミット | 独裁 | ★★★★☆ |
仲正昌樹 | 思想家ドラッカーを読む | ★★★☆☆ |
植島啓司 | 世界遺産神々の眠る「熊野」を歩く | ★★★☆☆ |
2018年に読んだマンガ(全27作品)
著者 | タイトル | 進捗 |
---|---|---|
堀尾省太 | ゴールデンゴールド | 3/5巻 |
王欣太 | 達人伝 | 18/22巻 |
カガノ・ミハチ | アド・アストラ | 8/13巻 |
ドラゴン画廊・リー | DRAGON BALL外伝 転生したらヤムチャだった件 | 全1巻 |
岡本倫 | 君は淫らな僕の女王 | 全2巻 |
山口貴由 | 衛府の七忍 | 4/6巻 |
水上悟志 | 水上悟志短編集「放浪世界」 | 全1巻 |
山田芳裕 | へうげもの | 全25巻 |
火鳥 | 快楽ヒストリエ | 1/2巻 |
園村 昌弘 | 天智と天武 | 4/11巻 |
宮島礼吏 | 彼女、お借りします | 1/8巻 |
水上悟志 | スピリットサークル | 1/6巻 |
水上悟志 | 戦国妖狐 | 1/17巻 |
稲葉光史 | からかい上手の(元)高木さん | 1/4巻 |
あだちつよし | 怪奇まんが道 | 全1巻 |
あだちつよし | 怪奇まんが道 奇想天外篇 | 全1巻 |
ゆでたまご | キン肉マン | 62/65巻 |
宵野コタロー | 終末のハーレム | 5/7巻 |
昆布わかめ | ジャヒー様はくじけない! | 1/3巻 |
押切蓮介 | ハイスコアガール | 9/9巻 |
沙村広明 | 波よ聞いてくれ | 5/5巻 |
山本崇一朗 | からかい上手の高木さん | 9/9巻 |
木多康昭 | 喧嘩稼業 | 11/11巻 |
冨樫義博 | HUNTER×HUNTER | 36/36巻 |
石塚真一 | BLUE GIANT SUPREME | 6/6巻 |
芥見下々 | 呪術廻戦 | 3/3巻 |
石黒正数 | 天国大魔境 | 1/1巻 |
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過去記事
註
Rhye Live 2018.05.18 @Zepp DiverCity メモ
19:30開演、21:25終演の全110分で、会場はお台場のZepp DiverCity。レコードでは53分の録音時間だった全14曲 を約2時間かけてじっくりと演奏。全曲ライブ仕様のアレンジが施されているせいか、一聴して何の曲か判別できない曲も数曲あった。編成は、ボーカル&パーカッション(マイク・ミロシュ)、キーボード、ドラム、ベース、ギター、チェロ&トロンボーン、ヴァイオリンの7人編成。去年のフジロックと比べて緩急自在の演奏に進化している。音響も良かった。ミロシュは初めて観た頃より太った気もした。
セットリスト
曲順 | タイトル | アルバム名 |
---|---|---|
1 | 3days | 『Woman』 |
2 | Please | 『Blood』 |
3 | The Fall | 『BWoman』 |
4 | Mager Miner Love | 『Woman』 |
5 | Softly | 『Blood』 |
6 | Last Dance | 『Woman』 |
7 | Waste | 『Blood』 |
8 | Count To Five | 『Blood』 |
9 | Phoenix | 『Blood』 |
10 | Taste | 『Blood』 |
11 | Stay Safe | 『Blood』 |
12 | Open | 『Woman』 |
13 | Hunger | 『Woman』 |
14 | Song For You | 『Blood』 |
メモ
1.3Days
ローズっぽい音色のキーボードソロへと展開し、奇妙な音で爆走して終焉。唖然。
2 .Please
ドラムが手拍子で観客を煽ってくる。徐々に会場が熱気を帯びてくる。
4.Mager Miner Love
再び手拍子。ヴァイオリンのソロからギターのフィードバックノイズへ。このタイプの展開はこれ以後も何度かあった。
5 .Softly
6 .Last Dance
Trippin Outのベースラインが印象的な曲。トロンボーンが鳴り響いてからのアレンジはもはや全く別の曲。
7 .Waste
『Blood』の1曲目。浮遊感のある演奏で夢見心地の気分に。ミロシュの歌唱法は、トム・ヨークを思わせる。
8. Count To Five
猛々しいライブ仕様に仕上がっていた。
9 .Phoenix
10.Taste
ドラムが変幻自在にテンポを変えていた。ギター凄い。
「次はどの曲がいいか?」というMCを挟んで11曲目へ。
11.Stay Safe
アレンジが効いてるせいか、演奏がスタートした当初は何の曲かわからなかった。
12.Open
ヴァイオリンから入り、ドラムをフューチャーした後は次の曲が始まったかと思うような展開に。
「残り二曲」のMCを挟んで13曲目へ。
13.Hunger
レコードよりさらにディスコっぽいアレンジに仕上がっていた。トロンボーンの女性がすごく良い。
参考
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- 出版社/メーカー: Republic
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生きる速度/宇野維正『小沢健二の帰還』の感想
『小沢健二の帰還』は小沢健二が「雲」として私たちの頭上を漂っていた“空白期”の活動に焦点を当てて書かれた本だ。『春にして君を想う』を遺して突如公の場から姿を消した1998年から『流動体について』を携えてフジロックで帰還する2017年までの19年もの間、彼は一体どこで何をしていたのだろうか?人の人生で面白いのは、そこに含まれた空自の数々、ある種の欠落部分であり、何年にも及ぶカタレプシー*2のようなものなら大抵の人の生涯にも含まれている。いつの日か多くを告げねばならぬ者は、多くを内に秘めて沈黙する。
いつの日か稲妻を発しなければならない者は、長いあいだ ― 雲でなければならない。
ーニーチェ*1
ー このあいだ「さよならなんて云えないよ」の宣材のプロフィールを見たんですけど、『犬キャラ』が消えていたんですよ。
荒川 そうなんですか!ついに!
ー 驚きましたね。まず、東大卒業からはじまるんですよ。もちろんフリッパーズ・ギターなんて出てこないし、いきなり小泉今日子とCMで共演。そのあと「今夜はブギーバック」になるんですよ。『犬キャラ』のことは一言も触れていない。どんどん過去が消えていく人なんですよ。
-『前略・小沢健二様』P97
『前略・小沢健二様』でも繰り返し指摘されているように、小沢健二には、自らの〈過去〉を消去して〈現在〉を加速度的に上書きしていく記憶喪失者としての一面がある。おそらく本人によっていずれは“無かったこと”にされるであろう過去(=下書き)とは一体どういうものだったのだろうか?そういうゲスな好機心を抱きながら何となく本書を手に取ったのだが、この本が伝える「小沢健二の空白期」は当初期待していたものとはぜんぜん違っていた。
ニューヨークのエレクトリック・レディ・スタジオで1999年に録音されたMarvin Gayeの『Got To Give It Up』のカバー。ヒップホップの揺らぐビートの洗礼を受けた同時代のR&Bに共鳴するかのようにブラックミュージックのビート・プログラミングを導入した2002年の異色作『Ecletic』(折衷)。2005年に開始され中南米やアフリカやアジアの国々*3で放浪者(=Vagavond)として生活していた時期の様子を伝える童話連載『うさぎ!』。首都としての東京ではなく、ローカルな場所としての東京、世界の中の一地方都市としての東京について歌った2012年の「東京の街が奏でる」公演…。
途切れ途切れには知っていた“空白期”の活動を本書を通じて改めてまとまった形で辿り直してみると、その内実は“空白”どころかこちらの予想のはるか斜め上を行く多彩で濃密なものだった。2017年はテレビにラジオ、新聞やネット等のさまざまな媒体で小沢健二の言葉を耳にした一年だったが、そんな充実した今の活動も本書で「空白期」と表現される足かけ19年にも及ぶ試行錯誤を土台にしたものであることがよくわかる。小沢健二は長きに渡るそんな試行錯誤の日々を「生きる速度」という短い言葉で説明している。
小沢 「えーと、人それぞれ、生きるペースってあるじゃないですか。」
うさぎ 「生きるペース。ふむふむ。」
小沢 「別の言い方をすると、みんな生きるうえで問題に直面した時には、それを解こうとするのだけど、人によって問題を解くのにかかる時間は違うし、問題そのものも違う、と言うか」
うさぎ 「わかるような、わからないような」
小沢 「ほら、学校のテストとかだと、同じ問題が配られて、同じ時間内で答えるわけだけど…」
うさぎ 「あー、学校じゃなくて日常生活では、みんなそれぞれ違う問題にぶち当たって、それぞれのやり方でその問題を解いてく、と」
小沢 「そうそう。子どもも大人も、よく見ると、それぞれの人が直面している問題とか、引きずってる問題とかは、一人一人全然違って。そのそれぞれ違う問題を、それぞれ違うペースで、違う文法で解こうとしたり、やめたり、また解こうとしたり、色々あるわけで」
うさぎ 「なるほど」
小沢 「ともかく、誰かが十年くらいかけて何かの問題を解いたとして、その問題は、他の誰かは一か月とか一年で解く問題なのかもしれない。あるいは他の誰かは一生解かない問題なのかもしれない。そういう風に、本当はみんなに、いろんな生き方とか、生きる速度があるわけで。もちろん、「周りに合わせて」みたいな圧力がかかるし、それはそれで良い面もあるけれど、無理に合わせると、ひどいゆがみが出たりする」
-「小沢健二に聞く」『ひふみよ』2010年1月19日更新
小沢健二が一体どんな問題を解こうとしていたのかは分らないし分かる必要もない。人はそれぞれ引きずっている問題が違うのだから。ただ、彼が不意に発した「生きる速度」の一語に触発されて、10年もの空白をかかえてパリの街に帰還した主人公が過去(=下書き)と向き合う覚悟を決めるフィッツジェラルドの傑作短編『バビロンに帰る』を新年早々読み返した。2018年も自分なりのペースでブログを更新していこうと思う。
註
2017年を振り返る(音楽)
2017年に聴いた音楽を聴いた順番に並べてみた。
2017年に聴いた音楽
総括
全部で88枚。去年は39枚だったので倍近くの枚数を聴いたことになる。
2017年に一番聴いたアルバムは↓
Calvin Harris - Funk Wav Bounces Vol. 1
で、特にSlide、Rollin、Skrt On Meの3曲は目覚まし時計に吹き込んでいたせいもあって、鳴ると即座にもう出勤時間だと勘違いして思わず体が身構えるぐらいには聴き込んだ。
聴取の媒体はこの一年で完全にストリーミングに移行した。Youtubeで音楽を聴くことはほぼ無くなった。ストリーミングサービスはこれまでずっとApple Musicを使っていたが、9月からはSpotifyをメインに切り替えた。今のところ両者を並行して使っているけれども、コストのことを考えるといずれはどちらかを切り捨てることになるだろう。
楽曲のアーカイブはAppleMusicの方が若干充実している*1のに対して、SpotifyはプレイリストやSNSの機能が優れている。個人的にはデータベースの充実度よりも未知の音楽との出逢いのチャンスを重視したいので、多分Spotifyの方を残すことになると思う。
とは言え、マンガと同じく音楽もまた、今年はランダム刺激に身を委ねたせいか、自分から積極的にまだ見ぬ音源を“狩り”に出かける機会はほとんど無かった。新譜の主要な情報源も結果的に以下の三つにほぼ限定されることになった。
- 『ミュージック・マガジン』1月~12月号
- フジロックフェスティバル2017
- 四谷荒木町のミュージックバー
今年の前半は『ミュージック・マガジン』の新譜欄を、5月から7月末にかけてはフジロックの出演アーティストの新譜を中心に聴いていた。2017年はフジロック*2や清竜人25のラスト▽コンサートのような大規模な音楽イベントだけに留まらず、都内某所で行われたJanusz Olejniczakのコンサートやベヒシュタイン・サロンでの企画のような演者と観客の距離が近いアットホームなイベントにも参加できたのが良かった。
そして、荒木町のREVO*3には年間通じてノンジャンルで新旧の色んな良い曲を教えてもらい本当にお世話になった。そう言えば、2017年心のベストテン第1位は週末の深夜にカウンターの隅っこで酩酊しながらよくかけてもらったこの曲だった。
堀込泰行 - エイリアンズ(Lovers Version)
- アーティスト:堀込泰行
- 出版社/メーカー: COLUMBIA
- 発売日: 2017/08/09
- メディア: MP3 ダウンロード
2018年も引き続き良い音楽が鳴っている場所に足を運ぶようにしたい。
Best Songs 2017
No. | アーティスト名 | 曲名 |
---|---|---|
1 | 堀込泰行 | エイリアンズ (Lovers Version) |
2 | Gorillaz | Submission (feat. Danny Brown & Kelela) |
3 | でんぱ組.inc | サクラあっぱれーしょん |
4 | Calvin Harris | Skrt On Me |
5 | Curtis Mayfield | Tripping Out |
6 | Shunské G & The Peas | Without You(There Is No Magic In This World) |
7 | Alfred Beach Sandal + STUTS | Horizon |
8 | サニーデイ・サービス | クリスマス |
9 | Superfruit | Bad 4 Us |
10 | PUNPEE | お嫁においで2015 feat. PUNPEE |
註
2017年を振り返る(読書)
2017年に読んだ本28冊を読んだ順番に並べてみた。
2017年に読んだ本
著者 | タイトル | 評価 |
---|---|---|
グレゴリー・ベイトソン | 精神と自然 生きた世界の認識論 | ★★★★☆ |
アルチュセール | 不確定な唯物論のために | ★★★☆☆ |
ベルクソン | ベルクソン講義録Ⅲ 近代哲学史講義・霊魂論講義 | ★★★★☆ |
アドルノ | 三つのヘーゲル研究 | ★★★★☆ |
蓮實重彦 | 「知」的放蕩論序説 | ★★★☆☆ |
野坂昭如 | 新宿海溝 | ★★☆☆☆ |
Various Writers | 前略 小沢健二様 | ★★☆☆☆ |
東浩紀 | ゲンロン0 観光客の哲学 | ★★★☆☆ |
國分功一郎 | 中動態の世界 | ★★★★☆ |
千葉雅也 | 勉強の哲学 | ★★★☆☆ |
ハイデガー | アリストテレス「形而上学」第9巻1-3 | ★★★★★ |
ハイデガー | シェリング講義 | ★★★★☆ |
ピーター・ブラウン | 古代末期の世界 | ★★★☆☆ |
ロラン・バルト | ロラン・バルト講義集成2 〈中性〉について | ★★★★★ |
ドッズ | ギリシァ人と非理性 | ★★★☆☆ |
堤清二・三浦展 | 無印ニッポン | ★★☆☆☆ |
アガンベン | バートルビー | ★★★★☆ |
読書猿 | アイデア大全 | ★★★★☆ |
フーコー | 自己と他者の統治 講義 | ★★★★☆ |
デリダ | 友愛のポリティックス Ⅰ | ★★★☆☆ |
カール・シュミット | 政治的なものの概念 | ★★★☆☆ |
神崎繁 | 内乱の政治哲学 | ★★★★☆ |
串田純一 | ハイデガーと生き物の問題 | ★★☆☆☆ |
経産省若手プロジェクト | 不安な個人、立ちすくむ国家 | ★★★☆☆ |
カール・シュミット | 政治神学再論 | ★★★★☆ |
田中イデア | ウケる!トーク術 | ★☆☆☆☆ |
宇野維正 | 小沢健二の帰還 | ★★★☆☆ |
武者英三監修 | 日本酒完全バイブル | ★★★☆☆ |
総括
今年の前半はずいぶん前に読んだハイデガーの二つの講義とRBの『中性について』の講義の再読に殆どの時間を費やし、後半は政治哲学の本を読み進めることに時間を割いた。
そんな中、特に強く心を動かされた本をあえて3冊挙げるとすれば次の3冊になる。
読書猿『アイデア大全』
IBMのBPRとデュルケムの宗教社会学を同一平面上で論じた書物など未だかつて有っただろうか。一見縁もゆかりもないように見える事柄同士を一つに結び合せるのが人文知の醍醐味であり、本書は端から端までそんな創意工夫[inventio]に満ち溢れている。現象学を媒介[medium]にしてジェンドリンの『フォーカシング』とレヴィナスのタルムード弁証法の間の隠された連関を明らかにしたP34-35の記述はまさにその典型だろう。いつも傍に置いて道具箱として使い倒したい一冊。フーコー『自己と他者の統治』
『啓蒙とは何か』というカントの『批判』的問いかけの傍らで、政治と哲学、哲学と現実の関係について考え抜いた最晩年の講義録。今年の後半、政治哲学系の本を読み始めるきっかけになった本。講義の題材として選ばれる古典は、
等々、僕のような初学者でも取っつきやすいものばかりだし、フーコーによるその解説も懇切丁寧で読み易い。6372円という法外な値段設定を度外視すればフーコーの入門書としても最適な本だと思う。
ところで、フーコーはこの講義の冒頭で、英米の分析哲学とドイツのフランクフルト学派というカントの『批判』が基礎づけた「二つの偉大な伝統」について駆け足で整理した後、自分自身の「哲学的な選択」について明瞭に語っている。最後にその箇所を引用して2017年最後の更新を終えようと思う。
それでは皆様、よいお年を。
現在わたしたちが直面している哲学的な選択とは次のようなものであると思われます。一般的な真理の分析哲学として提示されるような批判哲学を選ぶべきなのか、それとも、われわれ自身の存在論、現在性の存在論という形態をとる批判的思考を選ぶべきなのか。そして、ヘーゲルからニーチェ、マックス・ウェーバー等々を経てフランクフルト学派に至る、後者の哲学の形がひとつの考察の形態を打ち立てたのであり、もちろん、可能な限り私もそこに加わりたいと思うのです。
ーフーコー『自己と他者の統治』P27
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過去記事
註
2017年を振り返る(マンガ)
2017年に読んだマンガ全30作品を面白かった順番に並べてみた。
2017年に読んだマンガ
著者 | タイトル | 状態 |
---|---|---|
山本崇一朗 | からかい上手の高木さん | 7巻まで |
沙村広明 | 波よ聞いてくれ | 4巻まで |
木多康昭 | 喧嘩稼業 | 最新話まで |
福本伸行 | 銀と金 | 全10巻読了 |
押切蓮介 | ハイスコアガール | 7巻まで |
福本伸行 | 最強伝説黒沢 | 全11巻読了 |
福満しげゆき | 中2の男子と第6感 | 全4巻読了 |
岩明均 | ヒストリエ | 10巻まで |
冨樫義博 | HUNTER×HUNTER | 最新話まで |
石塚真一 | BLUE GIANT SUPREME | 3巻まで |
押切蓮介 | 狭い世界のアイデンティティー | 全1巻読了 |
あだち充 | ラフ | 全6巻読了 |
宮下英樹 | センゴク権兵衛 | 最新話まで |
あだち充 | クロス・ゲーム | 全17巻読了 |
涼川りん | リトル・ケイオス | 1巻まで |
カガノ・ミハチ | アド・アストラ ─スキピオとハンニバル─ | 5巻まで |
眉月じゅん | 恋は雨上がりのように | 9巻まで |
小山ゆう | あずみ | 全48巻読了 |
タナカカツキ | サ道 | 全1巻読了 |
藤田和日郎 | 双亡亭壊すべし | 1巻まで |
吾峠呼世晴 | 鬼滅の刃 | 1巻まで |
山田芳裕 | へうげもの | 23巻まで |
中村真理子 | 天智と天武-新説・日本書紀- | 3巻まで |
堀尾省太 | ゴールデンゴールド | 2巻まで |
王欣太 | 達人伝~9万里を風に乗り | 17巻まで |
藤田和日郎 | うしおととら | 2巻まで |
河本ほむら | 賭ケグルイ | 4巻まで |
森川ジョージ | はじめの一歩 | 最新話まで |
近藤ようこ | 五色の舟 | 全1巻読了 |
うめざわしゅん | パンティストッキングのような空の下 | 全1巻読了 |
総括
今年はそんなに意識してマンガを読んだ記憶はなかったにも関わらず、こうして振り返ってみると結果的に去年と同じぐらいの量を読んでいた。とは言え、夢中になって貪るように読んだのは、『からかい上手の高木さん』ぐらいで、《『HUNTER×HUNTER』と『喧嘩商売』が再臨するまでの間に暇つぶしで他の作品に当たってみた》…ような印象の低調な一年だった。そのせいもあって、去年と代わり映えのしない作品が並んでいる。
展望
今年一年ただ漫然とマンガを読んでしまった反省を踏まえ、来年は時間の許す限り以下の項目に取り組んで行きたい。
2018年に読みたいマンガ
著者 | タイトル |
---|---|
ノッツ | 初情事まであと一時間 |
太陽まりい | 騎乗戦士木馬サン |
吉田貴司 | やれたかも委員会 |
フランソワ・ダンベルトン | セルジュ・ゲンズブール |
位置原光Z | お尻触りたがる人なんなの |
村田圭 | 超訳百人一首 うた恋。 |
小野ハルカ | 氷球姫×常磐木監督の過剰な愛情 |
いくえみ綾 | あなたのことはそれほど |
入江喜和 | たそがれたかこ |
左藤真通 | アイアンバディ |
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過去記事
『ゲンロン7』収録の鼎談「接続、切断、誤配」の感想。
『ゲンロン7』の「哲学の再起動」特集に収録されている國分功一郎×千葉雅也×東浩紀の鼎談「接続、切断、誤配」を読んだ。文化的な運動である限りは近代を批判していられたポストモダニズムも、政治運動に応用された瞬間に近代的な主体のモデルを使わざるを得なくなったこと等、鋭い指摘がいくつもあっておもしろかった。以下、鼎談の後半で特に気になった点をメモ。
東 「明日から本気出す」論というのは、基本的に遠近法的倒錯で成立している。事後的に振り返ってしか見えるはずのない可能性を、まだその時点が来ていない現時点で勝手に先取りし、いまここに存在しているかのようにふるまう行為です。ほんとうはすべての可能性なるものは、本気を出して成功したあと、事後的に振り返って「ああ、あのときすでにポテンシャルがあったんだな」と発見できるものでしかないのに、その未来を勝手に先取りして可能性の現前を宣言している。そこが滑稽なんですね。
ー東浩紀編『ゲンロン7』P26
上の発言の内容自体に詳しく立ち入らなくとも、次のことは明らかに見て取れる。それは、可能性[potentia]がいつ・どのようにして・現実に眼の前に有りうるのかということが話題になっていると言うことである。
この発言は、可能性が《何で有るか》ではなく、可能性が《いかに有るか》、可能性が眼の前に有るその有り様に関わっている。可能性の本質[essentia]ではなく、その現実性[existentia]を際立たせて取り出すことが出来るかどうかが問題なのだ。
東浩紀はこの問題を独特の仕方で否認する。彼にとって可能性は、二重の意味で有ラヌモノ、現実には存在しないものだからである。それが有る「かのように」「見える」のは、ただ見かけの上でそう「見える」だけのことにすぎない。
東にとって可能性は、まず第一に、「事後的に振り返ってしか見えるはずのない」ものである。「可能性なるもの」は、何らかのポテンシャリティ(可能性)が発揮され(=本気を出し)た後、「事後的に振り返って」はじめて「ああ、あのときすでにポテンシャルがあったんだな」という形で発見できるようなものでしかない。したがって、可能性は、それが見出された時点では常にモハヤ…ナイという意味で有ラヌモノである。
第二に、可能性は「まだその時点が来ていない」もの、まだ私たちの眼の前に現前してはいないものである。それ故、可能性は常にイマダ…ナイと言う意味でも有ラヌモノである。
その結果、可能性は、イマダ…ナイもの(未来)であると同時にモハヤ…ナイもの(過去)でもあり、「いまここ」には決して現前し得ないものと言うことになるだろう。可能性は東にとって二重の意味で有ラヌモノであり、かつて現前した試しもないし、今も現前しないし、今後も決して現前することがないような奇妙な代物である*1。それはいつも「後からしか分からない」。言わば、想起の対象でしかない。
可能性は有らぬ・可能性はつねにすでに私たちの眼の前から逃れ去っている・可能性は事後的=遡行的にしか知り得ないー可能性が現前すること、すなわち、可能性が現に眼の前に存在することを執拗に否認する東のテーゼは、古代ギリシアのメガラ派のテーゼを彷彿させる。いやむしろ、メガラ派にはかろうじて遂行(抑止の解除)という現実化の契機があったのに対して、東派の議論には現実化の契機がいっさい無いのだから、メガラ派のテーゼをより過激にしたものと言えるのかも知れない。いずれにせよ、メガラ派のテーゼとプラトン・アリストテレスによるその論駁についてはずいぶん前に書いたことがあるのでここでは繰り返さない。
◆
今回注目しておきたい点は、可能的なものの現実化についてのメガラ派類似の議論と事後性[Nachtragjichkeit]の論理*2の興味深いカップリングが、最初期の著作である『存在論的、郵便的』の冒頭部にまで遡って見出すことができることである。ここではただ、問題の所在を明確にするために『存在論的、郵便的』の該当箇所を確認するだけに留めておこう。
〔フッサールの〕この論理は常識的に考えてきわめて強い。確かに歴史は一つしかないし、理念的対象もまた事後的にしか、つまりそれが現実化(歴史化)してしか知られることがない。とすればフッサールの議論は現実的に正しく、その批判は難しい。
『幾何学の起源』におけるフッサールの「現実的に正し」い議論に抗うために、手紙が「行方不明になる危険につねに晒されている」ことの指摘、かの有名な郵便物の誤配のモチーフが『存在論的、郵便的』に初登場するのは引用箇所のすぐ後である。郵便的脱構築の全体を支える事後性の論理は、根本的には、可能的なものが現前することに対する執拗な否認によって要請されている。
メガラ派類似のテーゼ・事後性の論理・郵便物誤配のテーゼ。以上の三位一体を論駁するためには、差し当たり、可能的なものの現実化の問いを仕上げる必要がある。より詳しく言えば、現実には存在しないけれども「いまここに存在しているかのように」見える可能性を「事後的に」描き出すのではなくて、イマダ遂行されてはいナイが、それにもかかわらず、実在的であるような可能性の有り方を「先取り」とは別の仕方で描き出す必要がある。換言すれば、イマダ・モハヤ現実化の過程にはナイにもかかわらず、ただ単に可能的なものと考えられただけではなくて、現実に現前している可能性はいかにして有るのかを問わなければならない。
一連の問題の背後には、おそらく哲学することの根本問題が隠れている。それは、ある意味で有ラヌモノノ有への問いであり、否定的なものの本質と存在一般の本質への問いでもあるからだ。メガラ派が提起しアリストテレスがつけた現前の『形而上学』への道筋は、20世紀前半にハイデガーによって辿り直され、今のところアガンベンが引き継いでいる。ところが、あたかもそんな哲学史など鼻から存在しないかのように「事後性」の名の下に可能的なものの現実化を単なる"遠近法的倒錯"として却下する神学が至る所に存在する…。「可能的なもの自体を経験すること」ー『勉強の哲学』以後の千葉雅也が人間中心主義を回避するような仕方で《ポテンシャリティをどう肯定するか》という問題に着手し始めたのは以上のような背景があってのことなのだろう。
神学者たちが欲しているのは、アリストテレスの書板を決然と割ってしまうこと、世界から可能性の経験をすべて抹消してしまうことである。…可能性という範疇がいずれにせよムタカッリムーン*3たちの世界から(そしてキリスト教神学者において彼らに相当する者たちの世界から)抹消されたことは確かであり、人間の潜勢力のすべてが基礎を奪われたというのも確かである。あるのは今や、神のペンの為す説明不可能な動きだけであり、その予兆を許すものや、書板の上で待っているものなど、何もない。世界のこの絶対的な脱様相化に抗して、ファラーシファ*4たちはアリストテレスの遺産に対する忠実さを守り続ける。じつのところ、哲学とは、その最深の意図においては、潜勢力の堅固な要求であり、可能的なもの自体を経験することの構築なのである。
過去記事
参考
バートルビー―偶然性について [附]ハーマン・メルヴィル『バートルビー』
- 作者: ジョルジョアガンベン,Giorgio Agamben,高桑和巳
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