学者たちを駁して

人文書中心の読書感想文

2018年を振り返る(読書)

総括

2018年の前半は文章読本を読み、後半は組織論と認知症対策の本を読んでいた。

特に↓に挙げる3冊については特に感銘を受けたので、いずれ再読するつもりでいる。

カール・シュミット『独裁』

独裁―近代主権論の起源からプロレタリア階級闘争まで

独裁―近代主権論の起源からプロレタリア階級闘争まで

民主主義的に義論を交わしていたのでは、企業に必要不可欠の迅速な意思決定は不可能、あらゆる企業は多かれ少なかれ”独裁“体制でなければ生き残っていけないんじゃないか ー そう言う仮説のもとで手に取った本。カール・シュミットは、ナチスへの関与も含めて国家の統治を語る上では色々と問題の多い人だと思う一方、企業の統治を考える上では極めて有用な著述家だと思ってる。たった一人の人間(専制君主)による独裁だけでなく、複数の人間(委員会)による独裁についても詳述されていてたいへん勉強になる。

樋口範雄『入門・信託と信託法』

入門・信託と信託法 第2版

入門・信託と信託法 第2版

  • 作者:樋口 範雄
  • 出版社/メーカー: 弘文堂
  • 発売日: 2014/04/21
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
登録認可制に移行する以前のFXのように法的にグレーで胡散臭い印象しか持てなかった〈信託〉だが、この本はそうした先入観を拭い去ってくれた。〈信託〉の法理とそのポテンシャルが初学者にもわかりやすく書かれているからだ。とりわけ参考になったのは〈委任〉と〈信託〉の違いについての記述。部下や同僚など、誰かに自分の仕事を委ねる時、その任せ方が〈信託〉なのか〈委任〉なのかで色々と違いが出てくるんだという気づきを得た。信任義務や利益相反についてここまで詳細にパターン分けしてくれた本は読んだ事がなく、自分の仕事を先に進める上でも大いに役に立った。

ハーバート・A・サイモン『システムの科学』

システムの科学

システムの科学

市場メカニズム、組織のヒエラルキー人工知能、デザイン、進化、企業の意思決定…etc。「人工物」をキーワードに多種多様なテーマを横断的に取り扱ったアイデアの武器庫のような本。一読しただけでは内容どころか本書の狙いさえ十分に理解できなかった。でも面白い。本書を読む前と読んだ後ではみえる世界が違ってくる。こう言う本は学生の間に読んでおきたかったが仕方がない。また読もう。

その他、ふと思い立ってドラッカーの本に手を出したり、サッカーや軍隊の戦術本をかじったり、長らくご無沙汰していた社会学の勉強を再開したりと、普段読まないようなジャンルの本に挑戦した一年だった。マンガについては例年通りで特筆すべきことはなかったと思う。

2018年に読んだ本(全33冊)

著者 タイトル レート
ヱクリヲ編集部 エクリオ vol.7 ★★★☆☆
山口文憲 読ませる技術 ★★★☆☆
石黒圭 文章は接続詞で決まる ★★★☆☆
斎藤美奈子 文章読本さん江 ★★★★☆
千葉雅也 メイキング・オブ・勉強の哲学 ★★★☆☆
松村劭 戦術と指揮 ★★★☆☆
稀見理都 エロマンガ表現史 ★★★☆☆
ジャック・デリダ 赦すこと ★★★☆☆
前田鎌利 社内プレゼンの資料作成術 ★★★☆☆
武地一編著 認知症カフェハンドブック ★★★☆☆
高橋政史 すべての仕事を紙1枚にまとめてしまう整理術 ★★★☆☆
山本芳久 トマス・アクィナス ★★★☆☆
バルタザール・グラシアン 賢者の教え ★★★☆☆
マイケル・ハマー リエンジニアリング革命 ★★★☆☆
山本七平 日本的革命の哲学 ★★★☆☆
ルイ・アルチュセール 哲学においてマルクス主義者であること ★★★☆☆
浅井千穂 入門TA ★★★★☆
大井玄 「痴呆老人」は何を見ているか ★★★☆☆
井筒俊彦 イスラーム哲学の原像 ★★★★☆
ハーバート・A.サイモン システムの科学 ★★★★☆
河合保弘 家族信託活用マニュアル ★★★★☆
野中郁次郎 知的機動力の本質 ★★★★☆
五百蔵容 砕かれたハリルホジッチ・プラン ★★★☆☆
ミシェル・フーコー わたしは花火師です ★★★☆☆
塩野七生 マキアヴェッリ語録 ★★★☆☆
P.F.ドラッカー ドラッカーの実践マネジメント教室 ★★★☆☆
樋口範雄 入門・信託と信託法 ★★★★☆
五百蔵容 サムライブルーの勝利と敗北 ★★★☆☆
三谷宏治 経営戦略全史 ★★★★☆
岸政彦他 社会学はどこから来てどこへ行くのか ★★★☆☆
カール・シュミット 独裁 ★★★★☆
仲正昌樹 思想家ドラッカーを読む ★★★☆☆
植島啓司 世界遺産神々の眠る「熊野」を歩く ★★★☆☆

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過去記事



Rhye Live 2018.05.18 @Zepp DiverCity メモ

open.spotify.com

19:30開演、21:25終演の全110分で、会場はお台場のZepp DiverCity。レコードでは53分の録音時間だった全14曲 を約2時間かけてじっくりと演奏。全曲ライブ仕様のアレンジが施されているせいか、一聴して何の曲か判別できない曲も数曲あった。編成は、ボーカル&パーカッション(マイク・ミロシュ)、キーボード、ドラム、ベース、ギター、チェロ&トロンボーン、ヴァイオリンの7人編成。去年のフジロックと比べて緩急自在の演奏に進化している。音響も良かった。ミロシュは初めて観た頃より太った気もした。

セットリスト

曲順 タイトル アルバム名
1 3days 『Woman』
2 Please 『Blood』
3 The Fall 『BWoman』
4 Mager Miner Love 『Woman』
5 Softly 『Blood』
6 Last Dance 『Woman』
7 Waste 『Blood』
8 Count To Five 『Blood』
9 Phoenix 『Blood』
10 Taste 『Blood』
11 Stay Safe 『Blood』
12 Open 『Woman』
13 Hunger 『Woman』
14 Song For You 『Blood』

メモ

1.3Days

ローズっぽい音色のキーボードソロへと展開し、奇妙な音で爆走して終焉。唖然。

2 .Please

ドラムが手拍子で観客を煽ってくる。徐々に会場が熱気を帯びてくる。

3 .The Fall

前作『Woman』からの名曲投入で序盤の盛り上がり。良い。 揺れながら踊り始める観客も出てくる。

フジロック入れて東京はこれで3回目」という短いMCを挟んで4曲目へ。

4.Mager Miner Love

再び手拍子。ヴァイオリンのソロからギターのフィードバックノイズへ。このタイプの展開はこれ以後も何度かあった。

5 .Softly
6 .Last Dance

Trippin Outのベースラインが印象的な曲。トロンボーンが鳴り響いてからのアレンジはもはや全く別の曲。

7 .Waste

『Blood』の1曲目。浮遊感のある演奏で夢見心地の気分に。ミロシュの歌唱法は、トム・ヨークを思わせる。

8. Count To Five

猛々しいライブ仕様に仕上がっていた。

9 .Phoenix
10.Taste

ドラムが変幻自在にテンポを変えていた。ギター凄い。

「次はどの曲がいいか?」というMCを挟んで11曲目へ。

11.Stay Safe

アレンジが効いてるせいか、演奏がスタートした当初は何の曲かわからなかった。

12.Open

ヴァイオリンから入り、ドラムをフューチャーした後は次の曲が始まったかと思うような展開に。

「残り二曲」のMCを挟んで13曲目へ。

13.Hunger

レコードよりさらにディスコっぽいアレンジに仕上がっていた。トロンボーンの女性がすごく良い。

14.Song For You

バック演奏がフェイドアウトしてミロシュのアカペラパートに移行し、静かなコールアンドレスポンスで終演。アンコールなし。

参考

Blood

Blood

Woman

Woman

過去記事

rodori.hatenablog.com

f:id:rodori:20180123170555j:plain

生きる速度/宇野維正『小沢健二の帰還』の感想

いつの日か多くを告げねばならぬ者は、多くを内に秘めて沈黙する。
いつの日か稲妻を発しなければならない者は、長いあいだ ― でなければならない。
ニーチェ*1

小沢健二の帰還

小沢健二の帰還

小沢健二の帰還』は小沢健二が「雲」として私たちの頭上を漂っていた“空白期”の活動に焦点を当てて書かれた本だ。『春にして君を想う』を遺して突如公の場から姿を消した1998年から『流動体について』を携えてフジロックで帰還する2017年までの19年もの間、彼は一体どこで何をしていたのだろうか?人の人生で面白いのは、そこに含まれた空自の数々、ある種の欠落部分であり、何年にも及ぶカタレプシー*2のようなものなら大抵の人の生涯にも含まれている。

ー このあいだ「さよならなんて云えないよ」の宣材のプロフィールを見たんですけど、『犬キャラ』が消えていたんですよ。
荒川 そうなんですか!ついに!
ー 驚きましたね。まず、東大卒業からはじまるんですよ。もちろんフリッパーズ・ギターなんて出てこないし、いきなり小泉今日子とCMで共演。そのあと「今夜はブギーバック」になるんですよ。『犬キャラ』のことは一言も触れていない。どんどん過去が消えていく人なんですよ。
-『前略・小沢健二様』P97

『前略・小沢健二様』でも繰り返し指摘されているように、小沢健二には、自らの〈過去〉を消去して〈現在〉を加速度的に上書きしていく記憶喪失者としての一面がある。おそらく本人によっていずれは“無かったこと”にされるであろう過去(=下書き)とは一体どういうものだったのだろうか?そういうゲスな好機心を抱きながら何となく本書を手に取ったのだが、この本が伝える「小沢健二の空白期」は当初期待していたものとはぜんぜん違っていた。

ニューヨークのエレクトリック・レディ・スタジオで1999年に録音されたMarvin Gayeの『Got To Give It Up』のカバー。ヒップホップの揺らぐビートの洗礼を受けた同時代のR&Bに共鳴するかのようにブラックミュージックのビート・プログラミングを導入した2002年の異色作『Ecletic』(折衷)。2005年に開始され中南米やアフリカやアジアの国々*3で放浪者(=Vagavond)として生活していた時期の様子を伝える童話連載『うさぎ!』。首都としての東京ではなく、ローカルな場所としての東京、世界の中の一地方都市としての東京について歌った2012年の「東京の街が奏でる」公演…。

途切れ途切れには知っていた“空白期”の活動を本書を通じて改めてまとまった形で辿り直してみると、その内実は“空白”どころかこちらの予想のはるか斜め上を行く多彩で濃密なものだった。2017年はテレビにラジオ、新聞ネット等のさまざまな媒体で小沢健二の言葉を耳にした一年だったが、そんな充実した今の活動も本書で「空白期」と表現される足かけ19年にも及ぶ試行錯誤を土台にしたものであることがよくわかる。小沢健二は長きに渡るそんな試行錯誤の日々を「生きる速度」という短い言葉で説明している。

小沢 「えーと、人それぞれ、生きるペースってあるじゃないですか。」
うさぎ 「生きるペース。ふむふむ。」
小沢 「別の言い方をすると、みんな生きるうえで問題に直面した時には、それを解こうとするのだけど、人によって問題を解くのにかかる時間は違うし、問題そのものも違う、と言うか」
うさぎ 「わかるような、わからないような」
小沢 「ほら、学校のテストとかだと、同じ問題が配られて、同じ時間内で答えるわけだけど…」
うさぎ 「あー、学校じゃなくて日常生活では、みんなそれぞれ違う問題にぶち当たって、それぞれのやり方でその問題を解いてく、と」
小沢 「そうそう。子どもも大人も、よく見ると、それぞれの人が直面している問題とか、引きずってる問題とかは、一人一人全然違って。そのそれぞれ違う問題を、それぞれ違うペースで、違う文法で解こうとしたり、やめたり、また解こうとしたり、色々あるわけで」
うさぎ 「なるほど」
小沢 「ともかく、誰かが十年くらいかけて何かの問題を解いたとして、その問題は、他の誰かは一か月とか一年で解く問題なのかもしれない。あるいは他の誰かは一生解かない問題なのかもしれない。そういう風に、本当はみんなに、いろんな生き方とか、生きる速度があるわけで。もちろん、「周りに合わせて」みたいな圧力がかかるし、それはそれで良い面もあるけれど、無理に合わせると、ひどいゆがみが出たりする」
-「小沢健二に聞く」『ひふみよ』2010年1月19日更新

小沢健二が一体どんな問題を解こうとしていたのかは分らないし分かる必要もない。人はそれぞれ引きずっている問題が違うのだから。ただ、彼が不意に発した「生きる速度」の一語に触発されて、10年もの空白をかかえてパリの街に帰還した主人公が過去(=下書き)と向き合う覚悟を決めるフィッツジェラルドの傑作短編『バビロンに帰る』を新年早々読み返した。2018年も自分なりのペースでブログを更新していこうと思う。

*1:1883年にニーチェが『曙光』の或る献呈本に書き記した詩

*2:ストア派の把握的表象の理論については神崎繁『西洋哲学史2』収録の近藤智彦「ヘレニズム哲学」を参照。

*3:ペルー、ベネズエラボリビア、日本、ラオス、ネパール、メキシコ、バングラディシュ、レソト王国、ヨルダン、エチオピア南アフリカ…etc。 https://youtu.be/jO5D4SgDGRI

2017年を振り返る(音楽)

2017年に聴いた音楽を聴いた順番に並べてみた。

2017年に聴いた音楽
アーティスト名 タイトル
HYUKOH Panda Bear
HYUKOH 20 - EP
A Tribe Called Quest We got it from Here... Thank You 4 Your service
Brian Eno Reflection
CODE KUNST MUGGLES' MANSION
テヨン I - The 1st Mini Album - EP
長岡成貢 PURPLE
A Taste of Honey A Taste of Honey
Jah9 9
Lee Fields & The Expressions Special Night
相対性理論 TOWN AGE
THE BAMBOOS You Ain't No Good
でんぱ組.inc サクラあっぱれーしょん - EP
でんぱ組.inc WORLD WIDE DEMPA
でんぱ組.inc WWDD
Erykah Badu Baduizm
Anthony Hamilton Comin' From Where I'm From
あるぱちかぶと ◎≠
YungGucciMane JADE
Suchmos THE KIDS
Luedji Luna Um Corpo no Mundo
The xx I See You
John Legend Darkness and Light
Ed Sheeran +
Julie Byrne Not Even Happiness
Guts Paradise for All
Various Artists 加山雄三の新世界
Spoon Hot Thoughts
水曜日のカンパネラ SUPERMAN
Childish Gambino Awaken, My Love!
竜人25 DUET - EP
Parcels Overnight
Jamiroquai Automaton
Jose James Love In a Time of Madness
Sampha Process
空中カメラ Dr.KIDS LIFE
Thundercat Drunk
サニーデイ・サービス DANCE TO YOU
iri Watashi
Tuxedo Tuxedo II
Lukas Graham Lukas Graham
電気グルーヴ TROPICAL LOVE
Ed Sheeran ÷
Gorillaz Humanz
HYUKOH 23
SEEDA 花と雨
Dragon Ash MAJESTIC
左とん平 とん平のヘイ・ユウ・ブルース
かまやつひろし あゝ、わが良き友よ
Mary J Blige Strength of a Woman
辻井伸行 リスト:ピアノ・ソナタ ロ短調 / ラヴェル:夜のガスパール
キミドリ キミドリ
Alfred Beach Sandal + STUTS ABS+STUTS - EP
Calvin Harris Funk Wav Bounces Vol. 1
STUTS Pushin'
Train a girl a bottle a boat
Gorillaz Demon Days
Gorillaz Plastic Beach
水曜日のカンパネラ クロールと逆上がり
Cornelius FANTASMA
Curtis Mayfield Something to Believe In
Shunské G & The Peas PEAS OF MIND
Vibrazioni Productions Espressione Globale
Phoenix Ti Amo
Jamiroquai Dynamite
原田知世 音楽と私
Curtis Mayfield Curtis
小沢健二SEKAI NO OWARI フクロウの声が聞こえる
ちゃんみな CHOCOLATE
Lianne La Havas Blood
堀込泰行 エイリアンズ (Lovers Version)
のん エイリアンズ
堀込泰行 GOOD VIBRATIONS
Ida Nielsen Sometimes a Girl Needs Some Sugar Too
Common & John Legend Glory (From the Motion Picture "Selma")
Keith Sweat Dress to Impress
竜人25 WIFE
サニーデイ・サービス Popcorn Ballads
PUNPEE MODERN TIMES
Migos Culture
Ruby Francis Traffic Lights
山下達郎 REBORN
Weezer Pacific Daydream
Izzy Bizu A Moment of Madness
Ibeyi Ash
T-Groove Rollers Skate EP
N.E.R.D No One Ever Really Dies
Kendrick Lamar DAMN.

総括

全部で88枚。去年は39枚だったので倍近くの枚数を聴いたことになる。
2017年に一番聴いたアルバムは↓

Calvin Harris - Funk Wav Bounces Vol. 1

open.spotify.com

で、特にSlideRollinSkrt On Meの3曲は目覚まし時計に吹き込んでいたせいもあって、鳴ると即座にもう出勤時間だと勘違いして思わず体が身構えるぐらいには聴き込んだ。

聴取の媒体はこの一年で完全にストリーミングに移行した。Youtubeで音楽を聴くことはほぼ無くなった。ストリーミングサービスはこれまでずっとApple Musicを使っていたが、9月からはSpotifyをメインに切り替えた。今のところ両者を並行して使っているけれども、コストのことを考えるといずれはどちらかを切り捨てることになるだろう。

楽曲のアーカイブはAppleMusicの方が若干充実している*1のに対して、SpotifyはプレイリストやSNSの機能が優れている。個人的にはデータベースの充実度よりも未知の音楽との出逢いのチャンスを重視したいので、多分Spotifyの方を残すことになると思う。

とは言え、マンガと同じく音楽もまた、今年はランダム刺激に身を委ねたせいか、自分から積極的にまだ見ぬ音源を“狩り”に出かける機会はほとんど無かった。新譜の主要な情報源も結果的に以下の三つにほぼ限定されることになった。

今年の前半は『ミュージック・マガジン』の新譜欄を、5月から7月末にかけてはフジロックの出演アーティストの新譜を中心に聴いていた。2017年はフジロック*2清竜人25のラスト▽コンサートのような大規模な音楽イベントだけに留まらず、都内某所で行われたJanusz Olejniczakのコンサートやベヒシュタイン・サロンでの企画のような演者と観客の距離が近いアットホームなイベントにも参加できたのが良かった。

そして、荒木町のREVO*3には年間通じてノンジャンルで新旧の色んな良い曲を教えてもらい本当にお世話になった。そう言えば、2017年心のベストテン第1位は週末の深夜にカウンターの隅っこで酩酊しながらよくかけてもらったこの曲だった。

堀込泰行 - エイリアンズ(Lovers Version)

エイリアンズ(Lovers Version)

エイリアンズ(Lovers Version)

  • アーティスト:堀込泰行
  • 出版社/メーカー: COLUMBIA
  • 発売日: 2017/08/09
  • メディア: MP3 ダウンロード

2018年も引き続き良い音楽が鳴っている場所に足を運ぶようにしたい。

過去記事

rodori.hatenablog.com

*1:SpotifyにはないCurtis Mayfiledや2017年に復活した小沢健二の楽曲がApple Musicにはアーカイヴされている。

*2:

*3:

2017年を振り返る(読書)

2017年に読んだ本28冊を読んだ順番に並べてみた。

2017年に読んだ本
著者 タイトル 評価
グレゴリー・ベイトソン 精神と自然 生きた世界の認識論 ★★★★☆
アルチュセール 不確定な唯物論のために ★★★☆☆
ベルクソン ベルクソン講義録Ⅲ 近代哲学史講義・霊魂論講義 ★★★★☆
アドルノ 三つのヘーゲル研究 ★★★★☆
蓮實重彦 「知」的放蕩論序説 ★★★☆☆
野坂昭如 新宿海溝 ★★☆☆☆
Various Writers 前略 小沢健二様 ★★☆☆☆
東浩紀 ゲンロン0 観光客の哲学 ★★★☆☆
國分功一郎 中動態の世界 ★★★★☆
千葉雅也 勉強の哲学 ★★★☆☆
ハイデガー アリストテレス「形而上学」第9巻1-3 ★★★★★
ハイデガー シェリング講義 ★★★★☆
ピーター・ブラウン 古代末期の世界 ★★★☆☆
ロラン・バルト ロラン・バルト講義集成2 〈中性〉について ★★★★★
ドッズ ギリシァ人と非理性 ★★★☆☆
堤清二三浦展 無印ニッポン ★★☆☆☆
アガンベン バートルビー ★★★★☆
読書猿 アイデア大全 ★★★★☆
フーコー 自己と他者の統治 講義 ★★★★☆
デリダ 友愛のポリティックス Ⅰ ★★★☆☆
カール・シュミット 政治的なものの概念 ★★★☆☆
神崎繁 内乱の政治哲学 ★★★★☆
串田純一 ハイデガーと生き物の問題 ★★☆☆☆
経産省若手プロジェクト 不安な個人、立ちすくむ国家 ★★★☆☆
カール・シュミット 政治神学再論 ★★★★☆
田中イデア ウケる!トーク術 ★☆☆☆☆
宇野維正 小沢健二の帰還 ★★★☆☆
武者英三監修 日本酒完全バイブル ★★★☆☆

総括

今年の前半はずいぶん前に読んだハイデガーの二つの講義とRBの『中性について』の講義の再読に殆どの時間を費やし、後半は政治哲学の本を読み進めることに時間を割いた。

そんな中、特に強く心を動かされた本をあえて3冊挙げるとすれば次の3冊になる。

読書猿『アイデア大全』

アイデア大全

アイデア大全

IBMのBPRデュルケムの宗教社会学を同一平面上で論じた書物など未だかつて有っただろうか。一見縁もゆかりもないように見える事柄同士を一つに結び合せるのが人文知の醍醐味であり、本書は端から端までそんな創意工夫[inventio]に満ち溢れている。現象学を媒介[medium]にしてジェンドリンの『フォーカシング』レヴィナスのタルムード弁証法の間の隠された連関を明らかにしたP34-35の記述はまさにその典型だろう。いつも傍に置いて道具箱として使い倒したい一冊。

神崎繁『内乱の政治哲学』

内乱の政治哲学 忘却と制圧

内乱の政治哲学 忘却と制圧

2016年10月16日に亡くなった『アリストテレス全集』の編纂者による遺稿集。ヘーゲルマルクスといった近代の哲学者たちが『アリストテレス知性論の系譜』をどのように消化したかを論じた「補論 アリストテレスの子供たち」が特に素晴らしかった。

ベルクソンの『霊魂論講義』やアガンベンの『バートルビー -偶然性について』、E・R・ドッズの『ギリシャ人と非理性』等とセットで読むことで古代から中世を経て現代にまで至る知性論の系譜の地下水脈を簡潔に辿り直すことができる良書だと思う。

フーコー『自己と他者の統治』

啓蒙とは何か』というカントの『批判』的問いかけの傍らで、政治と哲学、哲学と現実の関係について考え抜いた最晩年の講義録。今年の後半、政治哲学系の本を読み始めるきっかけになった本。

講義の題材として選ばれる古典は、

等々、僕のような初学者でも取っつきやすいものばかりだし、フーコーによるその解説も懇切丁寧で読み易い。6372円という法外な値段設定を度外視すればフーコーの入門書としても最適な本だと思う。

ところで、フーコーはこの講義の冒頭で、英米分析哲学とドイツのフランクフルト学派というカントの『批判』が基礎づけた「二つの偉大な伝統」について駆け足で整理した後、自分自身の「哲学的な選択」について明瞭に語っている。最後にその箇所を引用して2017年最後の更新を終えようと思う。

それでは皆様、よいお年を。

現在わたしたちが直面している哲学的な選択とは次のようなものであると思われます。一般的な真理の分析哲学として提示されるような批判哲学を選ぶべきなのか、それとも、われわれ自身の存在論現在性の存在論という形態をとる批判的思考を選ぶべきなのか。そして、ヘーゲルからニーチェマックス・ウェーバー等々を経てフランクフルト学派に至る、後者の哲学の形がひとつの考察の形態を打ち立てたのであり、もちろん、可能な限り私もそこに加わりたいと思うのです。
フーコー『自己と他者の統治』P27

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過去記事


2017年を振り返る(マンガ)

2017年に読んだマンガ全30作品を面白かった順番に並べてみた。

2017年に読んだマンガ

著者 タイトル 状態
山本崇一朗 からかい上手の高木さん 7巻まで
沙村広明 波よ聞いてくれ 4巻まで
木多康昭 喧嘩稼業 最新話まで
福本伸行 銀と金 全10巻読了
押切蓮介 ハイスコアガール 7巻まで
福本伸行 最強伝説黒沢 全11巻読了
福満しげゆき 中2の男子と第6感 全4巻読了
岩明均 ヒストリエ 10巻まで
冨樫義博 HUNTER×HUNTER 最新話まで
石塚真一 BLUE GIANT SUPREME 3巻まで
押切蓮介 狭い世界のアイデンティティー 全1巻読了
あだち充 ラフ 全6巻読了
宮下英樹 センゴク権兵衛 最新話まで
あだち充 クロス・ゲーム 全17巻読了
涼川りん リトル・ケイオス 1巻まで
カガノ・ミハチ アド・アストラ ─スキピオとハンニバル─ 5巻まで
眉月じゅん 恋は雨上がりのように 9巻まで
小山ゆう あずみ 全48巻読了
タナカカツキ サ道 全1巻読了
藤田和日郎 双亡亭壊すべし 1巻まで
吾峠呼世晴 鬼滅の刃 1巻まで
山田芳裕 へうげもの 23巻まで
中村真理子 天智と天武-新説・日本書紀- 3巻まで
堀尾省太 ゴールデンゴールド 2巻まで
王欣太 達人伝~9万里を風に乗り 17巻まで
藤田和日郎 うしおととら 2巻まで
河本ほむら 賭ケグルイ 4巻まで
森川ジョージ はじめの一歩 最新話まで
近藤ようこ 五色の舟 全1巻読了
うめざわしゅん パンティストッキングのような空の下 全1巻読了

総括

今年はそんなに意識してマンガを読んだ記憶はなかったにも関わらず、こうして振り返ってみると結果的に去年と同じぐらいの量を読んでいた。とは言え、夢中になって貪るように読んだのは、『からかい上手の高木さん』ぐらいで、《『HUNTER×HUNTER』と『喧嘩商売』が再臨するまでの間に暇つぶしで他の作品に当たってみた》…ような印象の低調な一年だった。そのせいもあって、去年と代わり映えのしない作品が並んでいる。

展望

今年一年ただ漫然とマンガを読んでしまった反省を踏まえ、来年は時間の許す限り以下の項目に取り組んで行きたい。

  • マンガ雑誌の購読媒体を紙媒体から電子媒体に切り替える。
  • Webマンガを定期購読する。
  • マンガ系のブログを定期購読する。
  • あだち充作品の体系的な読み直しを推進する。
  • 三原順の作品について考えをまとめる。

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過去記事

『ゲンロン7』収録の鼎談「接続、切断、誤配」の感想。

『ゲンロン7』の「哲学の再起動」特集に収録されている國分功一郎×千葉雅也×東浩紀の鼎談「接続、切断、誤配」を読んだ。文化的な運動である限りは近代を批判していられたポストモダニズムも、政治運動に応用された瞬間に近代的な主体のモデルを使わざるを得なくなったこと等、鋭い指摘がいくつもあっておもしろかった。以下、鼎談の後半で特に気になった点をメモ。

 

 「明日から本気出す」論というのは、基本的に遠近法的倒錯で成立している。事後的に振り返ってしか見えるはずのない可能性を、まだその時点が来ていない現時点で勝手に先取りし、いまここに存在しているかのようにふるまう行為です。ほんとうはすべての可能性なるものは、本気を出して成功したあと、事後的に振り返って「ああ、あのときすでにポテンシャルがあったんだな」と発見できるものでしかないのに、その未来を勝手に先取りして可能性の現前を宣言している。そこが滑稽なんですね。

 ー東浩紀編『ゲンロン7』P26

上の発言の内容自体に詳しく立ち入らなくとも、次のことは明らかに見て取れる。それは、可能性[potentia]がいつ・どのようにして・現実に眼の前に有りうるのかということが話題になっていると言うことである。

この発言は、可能性が《で有るか》ではなく、可能性が《いかに有るか》、可能性が眼の前に有るその有り様に関わっている。可能性の本質[essentia]ではなく、その現実性[existentia]を際立たせて取り出すことが出来るかどうかが問題なのだ。

東浩紀はこの問題を独特の仕方で否認する。彼にとって可能性は、二重の意味で有ラヌモノ、現実には存在しないものだからである。それが有る「かのように」「見える」のは、ただ見かけの上でそう「見える」だけのことにすぎない。

東にとって可能性は、まず第一に、「事後的に振り返ってしか見えるはずのない」ものである。「可能性なるもの」は、何らかのポテンシャリティ(可能性)が発揮され(=本気を出し)た後、「事後的に振り返って」はじめて「ああ、あのときすでにポテンシャルがあったんだな」という形で発見できるようなものでしかない。したがって、可能性は、それが見出された時点では常にモハヤ…ナイという意味で有ラヌモノである。

第二に、可能性は「まだその時点が来ていない」もの、まだ私たちの眼の前に現前してはいないものである。それ故、可能性は常にイマダ…ナイと言う意味でも有ラヌモノである。 

その結果、可能性は、イマダ…ナイもの(未来)であると同時にモハヤ…ナイもの(過去)でもあり、「いまここ」には決して現前し得ないものと言うことになるだろう。可能性は東にとって二重の意味で有ラヌモノであり、かつて現前した試しもないし、今も現前しないし、今後も決して現前することがないような奇妙な代物である*1。それはいつも「後からしか分からない」。言わば、想起の対象でしかない。

  可能性は有らぬ・可能性はつねにすでに私たちの眼の前から逃れ去っている・可能性は事後的=遡行的にしか知り得ないー可能性が現前すること、すなわち、可能性が現に眼の前に存在することを執拗に否認する東のテーゼは、古代ギリシアのメガラ派のテーゼを彷彿させる。いやむしろ、メガラ派にはかろうじて遂行(抑止の解除)という現実化の契機があったのに対して、東派の議論には現実化の契機がいっさい無いのだから、メガラ派のテーゼをより過激にしたものと言えるのかも知れない。いずれにせよ、メガラ派のテーゼとプラトン・アリストテレスによるその論駁についてはずいぶん前に書いたことがあるのでここでは繰り返さない。

 

            ◆

 

今回注目しておきたい点は、可能的なものの現実化についてのメガラ派類似の議論と事後性[Nachtragjichkeit]の論理*2の興味深いカップリングが、最初期の著作である『存在論的、郵便的』の冒頭部にまで遡って見出すことができることである。ここではただ、問題の所在を明確にするために『存在論的、郵便的』の該当箇所を確認するだけに留めておこう。

フッサールの〕この論理は常識的に考えてきわめて強い。確かに歴史は一つしかないし、理念的対象もまた事後的にしか、つまりそれが現実化(歴史化)してしか知られることがない。とすればフッサールの議論は現実的に正しく、その批判は難しい。

 -東浩紀存在論的、郵便的

幾何学の起源』におけるフッサールの「現実的に正し」い議論に抗うために、手紙が「行方不明になる危険につねに晒されている」ことの指摘、かの有名な郵便物の誤配のモチーフが『存在論的、郵便的』に登場するのは引用箇所のすぐ後である。郵便的脱構築の全体を支える事後性の論理は、根本的には、可能的なものが現前することに対する執拗な否認によって要請されている。

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メガラ派類似のテーゼ・事後性の論理・郵便物誤配のテーゼ。以上の三位一体を論駁するためには、差し当たり、可能的なものの現実化の問いを仕上げる必要がある。より詳しく言えば、現実には存在しないけれども「いまここに存在しているかのように」見える可能性を「事後的に」描き出すのではなくて、イマダ遂行されてはいナイが、それにもかかわらず、実在的であるような可能性の有り方を「先取り」とは別の仕方で描き出す必要がある。換言すれば、イマダ・モハヤ現実化の過程にはナイにもかかわらず、ただ単に可能的なものと考えられただけではなくて、現実に現前している可能性はいかにして有るのかを問わなければならない

 一連の問題の背後には、おそらく哲学することの根本問題が隠れている。それは、ある意味で有ラヌモノノ有への問いであり、否定的なものの本質と存在一般の本質への問いでもあるからだ。メガラ派が提起しアリストテレスがつけた現前の『形而上学』への道筋は、20世紀前半にハイデガーによって辿り直され、今のところアガンベンが引き継いでいる。ところが、あたかもそんな哲学史など鼻から存在しないかのように「事後性」の名の下に可能的なものの現実化を単なる"遠近法的倒錯"として却下する神学が至る所に存在する…。「可能的なもの自体を経験すること」ー『勉強の哲学』以後の千葉雅也が人間中心主義を回避するような仕方でポテンシャリティをどう肯定するか》という問題に着手し始めたのは以上のような背景があってのことなのだろう。

神学者たちが欲しているのは、アリストテレスの書板を決然と割ってしまうこと、世界から可能性の経験をすべて抹消してしまうことである。…可能性という範疇がいずれにせよムタカッリムーン*3たちの世界から(そしてキリスト教神学者において彼らに相当する者たちの世界から)抹消されたことは確かであり、人間の潜勢力のすべてが基礎を奪われたというのも確かである。あるのは今や、神のペンの為す説明不可能な動きだけであり、その予兆を許すものや、書板の上で待っているものなど、何もない。世界のこの絶対的な脱様相化に抗して、ファラーシファ*4たちはアリストテレスの遺産に対する忠実さを守り続ける。じつのところ、哲学とは、その最深の意図においては、潜勢力の堅固な要求であり、可能的なもの自体を経験することの構築なのである

ー ジョルジュ・アガンベンバートルビー - 偶然性について』P25

過去記事

rodori.hatenablog.com

参考
ゲンロン7 ロシア現代思想II

ゲンロン7 ロシア現代思想II

 

 

存在論的、郵便的―ジャック・デリダについて

存在論的、郵便的―ジャック・デリダについて

 

 

バートルビー―偶然性について [附]ハーマン・メルヴィル『バートルビー』

バートルビー―偶然性について [附]ハーマン・メルヴィル『バートルビー』

 

 

*1:散種の時間性

*2:事後性ーシニフィアンがまず先に有って、それについて「後から」意味が与えられること。
「言説には時間が含まれている。言説は時間の中に次元と厚みを持っている…私が一つのフレーズを言い始める時、あなたにその意味がわかるのは、私が言い終わってからである。
ラカン『セミネールV』1957.11.6

*3:神学者のこと。

*4:哲学者のこと。