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学者たちを駁して

人文書中心の読書感想文

80年代ラップ歌謡ノート1(1981年)

1981年

ユー・アンド・ミー・オルガスムス・オーケストラ - 咲坂と桃内のごきげんいかが1・2・3

作詞 スネークマンショー*1
作曲 細野晴臣
編曲 細野晴臣
発売 1981.2.21
備考 アルバム『スネークマンショー』収録。

・この曲でラップを披露しているのはラジオDJの小林克也(咲坂守)と選曲家の伊武雅刀(畠山桃内)。

・ネタはBlondieの「Rapture」

・元祖ラップ歌謡との呼び声も高いこの曲は、生演奏のファンクにラップを乗せた、いわゆるオールドスクール仕様。ただし後半は、ナンセンスな言葉の掛け合いに重点を置いた一種の漫談のような仕上がりになっている。

・人間の声を単なる打楽器として使用するラップの技術に、ナンセンスな言葉遊びの要素を結びつけたという点で、本作はこの国の最初期のラップ歌謡のあり方に一つの筋道をつけたと言われている。

志村けんも『全員集合』でマネしている。

山田邦子 - 邦子のかわい子ブリっ子~バスガイド編

作詞 山田邦子
作曲 渡辺直樹
編曲 渡辺直樹
発売 1981.12
歌詞 mojim.com
備考 アルバム『ゴールデン☆ベスト 山田邦子』収録。

・当初は漫談家として活動していた山田邦子による当時の人気ネタを音盤化したデビュー曲。

・「ごきげんいかが1・2・3」と同じくオールドスクール仕様。演奏には在りし日のSPECTRUMのメンバーが参加し、CHICの「GOOD TIMES」RE-EDIT的に解釈したビートを聴くことができる。

・主要部は彼女の持ちネタの披露だが、サビの部分はちゃんとリズムに乗ってラップしている。

・持ちネタとして披露されている「ぶりっ子」や「オモテナシ」などのギャグは、後に流行語となって彼女の下を去って行った。

関連曲

岡雅子・石渡のり子 - マコとノンコのごきげんいかが1・2・3

作詞 スネークマン・ショー*2
作曲 細野晴臣
編曲 高田弘
発売 1981.8.21
備考 シングル『夢細工』のCW曲。

・ラジオDJの岡雅子と石渡のり子*3が「ごきげんいかが1・2・3」の咲坂と桃内の家内に扮して同曲をカバー。

・曲は原曲とほぼ同じだが、歌詞が替え歌になっている。後半は、人妻の喘ぎ声の応酬から、都々逸、早口言葉へと順々にエスカレートしていき、最後はモノマネで締める二人の持ちネタの披露の場と化していて、もはやラップの体裁をなしていない。

Sketch Show - GOKIGEN IKAGA 1・2・3

作詞 スネークマン・ショー
作曲 細野晴臣
発売 2002.9.19
備考 アルバム『audio sponge』収録。

Sketch Show名義によるセルフカヴァーには、2ヴァージョンある。一つはレーベル・コンピ『Strange Flowers Vol.1』で顔見世的に披露したもの、もう一つはデビュー・アルバムの『audio sponge』(2002年)。

OST - 圭一・大石の噂の事件簿ABC

作詞 江幡育子
作曲 細江慎治
編曲 細江慎治
発売 2007.3.28
備考 アルバム『ひぐらしのなく頃に キャラクターCD Vol.1』収録。

・ラップは、前原圭一保志総一朗)と大石蔵人茶風林)。

・アニメ『ひぐらしのなく頃に』に登場する前原圭一大石蔵人によるキャラソン。曲名も含めて「ごきげんいかが1・2・3」のパロディになっている。

ノート

元祖ラップ歌謡の創始者してのYMO
今のところ1981年の「ごきげんいかが1・2・3」以前にラップ歌謡は見つかっていない。つまり、この曲は"元祖ラップ歌謡"なのである。同曲を作曲したのは、YMO*4細野晴臣である。だとすれば、テクノ歌謡どころかラップ歌謡をも創始したYMOは、やはり戦後のポップスの有り方を規定した偉大なる創始者(=まったくの初心者)ということになるのだろう。YMOのメンバーはそう呼ばれるのを嫌がるかも知れないけれども。

92年に細野晴臣に話を聞いたとき、YMOが後世のテクノに与えた影響といったあたりに話題が及ぶと、なんとも複雑な表情を見せたのが印象に残っている。たとえば特定の曲の機材の使用法であるとか、あのアルバムの影響が、といった技法的な面ではなく、YMOの音楽そのものがテクノに与えた影響となると正直、わからないと言いたげだった。

クラフトワークならわかる。彼らはスタンダードとなることを意識して極端に変わることをしなかったから」

それに対してYMOは、スタンダードとなることを拒否して常に変わり続けていた。であるから、後のテクノに対して、技法面など断片的な影響は与えたのかもしれないが、YMO総体としては影響うんぬんというのはどうだろうかという趣旨であった。
- MUSIC MAGAZINE増刊 監修 小野島大『NU SENSATIONS 日本のオルタナティヴ・ロック 1978-1998』

海外でサンプリングされ続けるYMOの音楽
以前、『海外でサンプリングされた日本の音楽まとめ』を作成したときに気づいたことだが、YMOは「海外でサンプリングされた日本の音楽」の王として今なお君臨し続けている。ある曲をサンプリングすることが、その曲を評価することと同義だとしたら、海外で評価=サンプリングされている日本の大衆音楽家といえば、まず第一にYMOであり、その後に、久石譲とかキタローのような人たちが続いている印象だ(山下達郎の曲は言うほどたいして評価=サンプリングされていない)。海外でサンプリングされた曲の数において、YMOは二位以下の音楽家を圧倒的に引き離していると言っていいと思う。

話は飛ぶが、國分功一郎は『「ヴィジュアル系」論』の中で日本のV系が現在「海外から強い支持を獲得し」ていると書いている。でも、その「海外」とは具体的にはのことを指すのだろうか?単なるファン=熱狂者か?それとも評論家を指すのだろうか?少なくとも海外のDJ(=熟練のリスナー)がV系をサンプリング=支持しているのを私は聴いたことがない。強く「支持」しているのがDJではないとすれば、いったい《海外の誰が日本のヴィジュアル系を評価しているのだろうか?》謎である。最近、SHAZNAをあらためて聴き直してみてV系に興味が出てきたせいか、その点がすごく気になってる。

ビジュアル系の化粧は外道以来の気合の証明
ビジュアル系ねぇ。
ロックの人間が化粧するのなんて二十五年も前のグラムロックの時からあったんだよね。
加藤和彦も四方義朗も今じゃシブーい大人の魅力で売ってるけど昔はロンブーはいてギンギンに化粧してたんだぜ。
じゃあSHAZNAとかはその子孫なのか?加藤和彦イヤがるだろうなァ、もしそうだとしたら。
オレね、今のロックの化粧って"外道"がルーツだと思ってんのね。外道ってロックバンドがあったの憶えてるかなぁ。
グラムロックをやってた人達っておしゃれってことで化粧してた訳じゃない? 外道はセンスが悪いのと勘違いとで、化粧をするイコール気合を入れるって方向にいっちゃったんだよ。白塗りだよ、白塗り。
外道がグラムとは全然別の純和風な化粧の道を作ったとオレは思ってる。
今、化粧してるバンドの人達って大体気合入れるの好きなタイプでしょ?
- 近田春夫『考えるヒット』

だが、「気合いを入れる」のが好きなタイプの人間は今ではヒップホップ"文化"に憧れるのが常である。そして、このノートが関心を注ぐ「ラップ歌謡」は、そういった「気合いを入れる」とか白塗りの「化粧をする」といった何らかの「スタンダード」(尺度)に準拠した振る舞いとはいっさい無縁な世界のはずだ。

ラップ/ヒップホップ
そもそもラップとは何だろうか?ラップはヒップホップとどう違うのか?近田春夫は、一つの発声技術としてラップを定義している。

日本のヒップホップをポピュラーにする方策とは
ラップとヒップホップ。厳密には指すものが違う。ラップはコトバを発する肉声を、メロディ楽器としてではなく、パーカッションの位置付けで、先ず捉えようとするひとつの技術論である。そして、ヒップホップは、アメリカのある地域で、そうした技術が出現するに至る内的必然性、〔…〕"文化"の形態をいっている。そんな事は音楽雑誌でもパラパラとめくれば、すぐチェック出来るかも知れないが、我が国の若者、ラップではなくヒップホップに魅せられたのは、結局、その"文化"がカッコよく映ったからである。
- 近田春夫『考えるヒット』

ラップはカッコよくもダサくもない。"文化"ではないからだ。つまり、ラップとはアメリカのストリート文化に対する単なる憧れではなく一つの技術[τεχνη]であり、人間の声を打楽器として用いる技法である。《ラップとは人間の肉声をパーカッションとして用いる技術である》。近田春夫のこの定義に従えば、ヒューマンビートボックスはもちろん、ボイスパーカッションもラップに数えてよいことになる。自分でラップこそしないが人間の声を打楽器として再構築しているPOGOのような音楽家も広い意味でのラップに含めていいかもしれない。それに対して、肉声をシンセのように用いるホーミーホーメイのような倍音歌唱法はけっしてラップではないことになるだろう。しゃべった声を加工するSongifyや声素材そのものを合成する初音ミクも声をシンセとして使用する点でラップとは異なる技術であることは言うまでもない*5

Songify by Smule

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スネークマンショー (急いで口で吸え!)

スネークマンショー (急いで口で吸え!)

参考文献

考えるヒット (文春文庫)

考えるヒット (文春文庫)

参考リンク

裏YMOカヴァー(3)~ユー・メイ・ドリーム [テクノポップ] All About


*1:スネークマンショーは、桑原茂一・咲坂守(小林克也)・畠山桃内(伊武雅刀)によるラジオDJユニット。ベースを細野晴臣、ドラムスを高橋幸宏がそれぞれ担当している。

*2:補作詞:秋元康

*3:二人は当時トラック運ちゃん御用達の丁BSラジオ『歌うヘッドライト』のDJとして人気だった。

*4:Yellow Magic Orchestra

*5:ボカロをヒップホップ風に解釈する試みとしてはボカロラップミックホップがある。