学者たちを駁して

人文書中心の読書感想文

2018年を振り返る(読書)

総括

2018年の前半は文章読本を読み、後半は組織論と認知症対策の本を読んでいた。

特に↓に挙げる3冊については特に感銘を受けたので、いずれ再読するつもりでいる。

カール・シュミット『独裁』

独裁―近代主権論の起源からプロレタリア階級闘争まで

独裁―近代主権論の起源からプロレタリア階級闘争まで

民主主義的に義論を交わしていたのでは、企業に必要不可欠の迅速な意思決定は不可能、あらゆる企業は多かれ少なかれ”独裁“体制でなければ生き残っていけないんじゃないか ー そう言う仮説のもとで手に取った本。カール・シュミットは、ナチスへの関与も含めて国家の統治を語る上では色々と問題の多い人だと思う一方、企業の統治を考える上では極めて有用な著述家だと思ってる。たった一人の人間(専制君主)による独裁だけでなく、複数の人間(委員会)による独裁についても詳述されていてたいへん勉強になる。

樋口範雄『入門・信託と信託法』

入門・信託と信託法 第2版

入門・信託と信託法 第2版

  • 作者:樋口 範雄
  • 出版社/メーカー: 弘文堂
  • 発売日: 2014/04/21
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
登録認可制に移行する以前のFXのように法的にグレーで胡散臭い印象しか持てなかった〈信託〉だが、この本はそうした先入観を拭い去ってくれた。〈信託〉の法理とそのポテンシャルが初学者にもわかりやすく書かれているからだ。とりわけ参考になったのは〈委任〉と〈信託〉の違いについての記述。部下や同僚など、誰かに自分の仕事を委ねる時、その任せ方が〈信託〉なのか〈委任〉なのかで色々と違いが出てくるんだという気づきを得た。信任義務や利益相反についてここまで詳細にパターン分けしてくれた本は読んだ事がなく、自分の仕事を先に進める上でも大いに役に立った。

ハーバート・A・サイモン『システムの科学』

システムの科学

システムの科学

市場メカニズム、組織のヒエラルキー人工知能、デザイン、進化、企業の意思決定…etc。「人工物」をキーワードに多種多様なテーマを横断的に取り扱ったアイデアの武器庫のような本。一読しただけでは内容どころか本書の狙いさえ十分に理解できなかった。でも面白い。本書を読む前と読んだ後ではみえる世界が違ってくる。こう言う本は学生の間に読んでおきたかったが仕方がない。また読もう。

その他、ふと思い立ってドラッカーの本に手を出したり、サッカーや軍隊の戦術本をかじったり、長らくご無沙汰していた社会学の勉強を再開したりと、普段読まないようなジャンルの本に挑戦した一年だった。マンガについては例年通りで特筆すべきことはなかったと思う。

2018年に読んだ本(全33冊)

著者 タイトル レート
ヱクリヲ編集部 エクリオ vol.7 ★★★☆☆
山口文憲 読ませる技術 ★★★☆☆
石黒圭 文章は接続詞で決まる ★★★☆☆
斎藤美奈子 文章読本さん江 ★★★★☆
千葉雅也 メイキング・オブ・勉強の哲学 ★★★☆☆
松村劭 戦術と指揮 ★★★☆☆
稀見理都 エロマンガ表現史 ★★★☆☆
ジャック・デリダ 赦すこと ★★★☆☆
前田鎌利 社内プレゼンの資料作成術 ★★★☆☆
武地一編著 認知症カフェハンドブック ★★★☆☆
高橋政史 すべての仕事を紙1枚にまとめてしまう整理術 ★★★☆☆
山本芳久 トマス・アクィナス ★★★☆☆
バルタザール・グラシアン 賢者の教え ★★★☆☆
マイケル・ハマー リエンジニアリング革命 ★★★☆☆
山本七平 日本的革命の哲学 ★★★☆☆
ルイ・アルチュセール 哲学においてマルクス主義者であること ★★★☆☆
浅井千穂 入門TA ★★★★☆
大井玄 「痴呆老人」は何を見ているか ★★★☆☆
井筒俊彦 イスラーム哲学の原像 ★★★★☆
ハーバート・A.サイモン システムの科学 ★★★★☆
河合保弘 家族信託活用マニュアル ★★★★☆
野中郁次郎 知的機動力の本質 ★★★★☆
五百蔵容 砕かれたハリルホジッチ・プラン ★★★☆☆
ミシェル・フーコー わたしは花火師です ★★★☆☆
塩野七生 マキアヴェッリ語録 ★★★☆☆
P.F.ドラッカー ドラッカーの実践マネジメント教室 ★★★☆☆
樋口範雄 入門・信託と信託法 ★★★★☆
五百蔵容 サムライブルーの勝利と敗北 ★★★☆☆
三谷宏治 経営戦略全史 ★★★★☆
岸政彦他 社会学はどこから来てどこへ行くのか ★★★☆☆
カール・シュミット 独裁 ★★★★☆
仲正昌樹 思想家ドラッカーを読む ★★★☆☆
植島啓司 世界遺産神々の眠る「熊野」を歩く ★★★☆☆

関連記事


過去記事