学者たちを駁して

人文書中心の読書感想文

小林昭文『アクティブラーニング入門2』の感想

 

アクティブラーニング入門2〔DVD付〕

アクティブラーニング入門2〔DVD付〕

 

 仕事でセミナーの講師を務めることが増えてきたので手に取った本。高三の頃にマルクスを読んで安保闘争のデモに参加し、火炎瓶を投げて浪人した上に、大学に入ってからも(空手にハマって)三年留年したという、ある意味よくある経歴の持ち主が書いた本のせいか、平易な文章の中に「唯物論弁証法」とか「量質転化」みたいなマルクス主義の述語が唐突に出てきてギョッとする(2017年発行の本です)。

 本書の特徴は、かつての学校の授業のような先生から生徒への一方通行型の講義ではなく、対話[dialog]を重視した講義に焦点を当てた点にある。

私は「対話」はダイアローグ[dialog]の訳語と理解しています。この言葉に人数のニュアンスは含まれていません。その簡単な意味は「一人ではたどりつけないアイデアや結論にたどり着くプロセス(多田孝志)」です。

 「対話的な学び」を促進するために、問題を「一人では解けないしくみ」をあえて作ることさえしているらしい。

 対話や弁証法を重視したアプローチとしてまず第一に思い浮かぶのはカウンセリングやコーチングの技法だが、カウンセリングはあくまで先生と生徒、医師と患者のような「一対一」の関係を前提とした対人関係技法である。それに対して、セミナーの講師は「一対多」が基本だから、カウンセリングの諸技法を杓子定規に講義で実践しようとするとどうしても支障が出てきてしまう。

 そこで、著者が注目するのが、構成的グループエンカウンター*1、非構成的グループ、Tグループ*2、MLT*3GWT*4といったグループダイナミクスの諸技法だ。中でも特に、レグ・レバンスが発明し、ワシントン大学のマーコード教授が体系化したマーコード方式のアクションラーニングセッション(ALセッション)が本書の特権的な参照項となっている。

 ALセッションの特徴は、セミナーの参加者全体に《質問で介入する》ことで「対話的な学び」を促進することにある。質問自体はパターン化され、介入のタイミングさえもパターン化されている(「定例介入」という)。詳細は本書にゆずるが、この点に関する本書の実践的な記述は、セミナー参加者全体に対して質問を投げかけることで参加者を巻き込んでいくタイプのセミナー、講義の最中に参加者からの質問が飛び交うようなコール&レスポンス型のセミナーを目指していく上で大いに参考になった。

*1:SGE

*2:感受性訓練、ST訓練

*3:マイクロ・ラボラトリー・トレーニン

*4:グループワークトレーニン