今野元『マックス・ヴェーバー』
マックス・ウェーバーはわかりにくい。とりわけ彼の政治的主張はわかりにくい。
ナチスの御用学者だった「カール・シュミットがマックス・ウェーバーの正統的な弟子であったという事実」を重く見て、ウェーバーをファシズムとの関連で論じようとするハーバーマスのような人たちがいる一方、フーコーのようにオルド自由主義者との関連にフォーカスすることでネオリベの先駆者としてウェーバーを理解しようとする人たちもいる。
試みに『政治書簡集』のページをパラパラとめくっていると次のような言葉が目に飛び込んでくる。
外見的立憲主義政党としての中央党に反対。および過去において皇帝に反対する議会の真の実力を涵養しようと努力しなかったし、また現に努力もしていないで、ただ皇帝の手から個人的なお菓子をもらおうと努力した、そして現に努力している政党としての中央党に反対。そして議会による強力で公然たる行政監督に賛成。
(…)国民自由党内の反対派の(「新自由主義的」)分子を支持する!そして社会民主党内の労働組合的分子を支持する!それとともに、見せかけだけの立憲主義的な中央党に反対し、帝室の内政上の権力欲に反対する!さらに冷静な利害の打算に基づく政策を行わないで大言壮語の威信政策を行う帝室の外交に反対する!
ー マックス・ウェーバー『政治書簡集』
第一次世界大戦前後のドイツの政治情勢を知らない門外漢には、彼が一体何と闘っていたのかサッパリわからない。けれども、この手紙の内容そのものに詳しく立ち入らなくとも、少なくとも次のことは明らかに見て取れる。それはウェーバーがいい意味でも悪い意味でもめんどくさい奴だということである(普通のひとは「 ! 」感嘆符がいくつも付いたメールを他人に送ったりはしないだろう…)。
今野元の『マックス・ヴェーバー』は、書簡や同時代人へのインタビュー、少年時代の論文など、ウェーバーの生涯にまつわるあらゆる伝記的資料を駆使することで、当時のウェーバーの政治的立場がどのようなもので、彼が何と闘っていたのかを明らかにした。
同時にまた、本書は彼の大学の内外での政治的活動に記述の照準を合わせることで、
- 際限なく辛辣な言葉を浴びせて次々と他人を攻撃し続ける狂犬のようなウェーバー
- ポーランド移民を排斥せよと熱心に訴えるドナルド・トランプのようなウェーバー
- 「私は疑いなく「反ユダヤ主義者」だと思う」とつい漏らしてしまうウェーバー
- 「自分の説いた道徳を貫けず自縄自縛・言行不一致に陥」って苦しい言い訳を続けるウェーバー
のように、従来の研究ではほとんど描かれてこなかった彼の人間臭い一面を執拗に描いていて、好感を持った。
今年2020年が没後100周年ということで、ほぼ同時期に発売された野口雅弘の『マックス・ウェーバー』もコンパクトに業績を通覧できる好著なので、本書と一緒に読むと理解が深まって良いかも知れない。