学者たちを駁して

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2017年を振り返る(読書)

2017年に読んだ本28冊を読んだ順番に並べてみた。

2017年に読んだ本
著者 タイトル 評価
グレゴリー・ベイトソン 精神と自然 生きた世界の認識論 ★★★★☆
アルチュセール 不確定な唯物論のために ★★★☆☆
ベルクソン ベルクソン講義録Ⅲ 近代哲学史講義・霊魂論講義 ★★★★☆
アドルノ 三つのヘーゲル研究 ★★★★☆
蓮實重彦 「知」的放蕩論序説 ★★★☆☆
野坂昭如 新宿海溝 ★★☆☆☆
Various Writers 前略 小沢健二様 ★★☆☆☆
東浩紀 ゲンロン0 観光客の哲学 ★★★☆☆
國分功一郎 中動態の世界 ★★★★☆
千葉雅也 勉強の哲学 ★★★☆☆
ハイデガー アリストテレス「形而上学」第9巻1-3 ★★★★★
ハイデガー シェリング講義 ★★★★☆
ピーター・ブラウン 古代末期の世界 ★★★☆☆
ロラン・バルト ロラン・バルト講義集成2 〈中性〉について ★★★★★
ドッズ ギリシァ人と非理性 ★★★☆☆
堤清二三浦展 無印ニッポン ★★☆☆☆
アガンベン バートルビー ★★★★☆
読書猿 アイデア大全 ★★★★☆
フーコー 自己と他者の統治 講義 ★★★★☆
デリダ 友愛のポリティックス Ⅰ ★★★☆☆
カール・シュミット 政治的なものの概念 ★★★☆☆
神崎繁 内乱の政治哲学 ★★★★☆
串田純一 ハイデガーと生き物の問題 ★★☆☆☆
経産省若手プロジェクト 不安な個人、立ちすくむ国家 ★★★☆☆
カール・シュミット 政治神学再論 ★★★★☆
田中イデア ウケる!トーク術 ★☆☆☆☆
宇野維正 小沢健二の帰還 ★★★☆☆
武者英三監修 日本酒完全バイブル ★★★☆☆

総括

今年の前半はずいぶん前に読んだハイデガーの二つの講義とRBの『中性について』の講義の再読に殆どの時間を費やし、後半は政治哲学の本を読み進めることに時間を割いた。

そんな中、特に強く心を動かされた本をあえて3冊挙げるとすれば次の3冊になる。

読書猿『アイデア大全』

アイデア大全

アイデア大全

IBMのBPRデュルケムの宗教社会学を同一平面上で論じた書物など未だかつて有っただろうか。一見縁もゆかりもないように見える事柄同士を一つに結び合せるのが人文知の醍醐味であり、本書は端から端までそんな創意工夫[inventio]に満ち溢れている。現象学を媒介[medium]にしてジェンドリンの『フォーカシング』レヴィナスのタルムード弁証法の間の隠された連関を明らかにしたP34-35の記述はまさにその典型だろう。いつも傍に置いて道具箱として使い倒したい一冊。

神崎繁『内乱の政治哲学』

内乱の政治哲学 忘却と制圧

内乱の政治哲学 忘却と制圧

2016年10月16日に亡くなった『アリストテレス全集』の編纂者による遺稿集。ヘーゲルマルクスといった近代の哲学者たちが『アリストテレス知性論の系譜』をどのように消化したかを論じた「補論 アリストテレスの子供たち」が特に素晴らしかった。

ベルクソンの『霊魂論講義』やアガンベンの『バートルビー -偶然性について』、E・R・ドッズの『ギリシャ人と非理性』等とセットで読むことで古代から中世を経て現代にまで至る知性論の系譜の地下水脈を簡潔に辿り直すことができる良書だと思う。

フーコー『自己と他者の統治』

啓蒙とは何か』というカントの『批判』的問いかけの傍らで、政治と哲学、哲学と現実の関係について考え抜いた最晩年の講義録。今年の後半、政治哲学系の本を読み始めるきっかけになった本。

講義の題材として選ばれる古典は、

等々、僕のような初学者でも取っつきやすいものばかりだし、フーコーによるその解説も懇切丁寧で読み易い。6372円という法外な値段設定を度外視すればフーコーの入門書としても最適な本だと思う。

ところで、フーコーはこの講義の冒頭で、英米分析哲学とドイツのフランクフルト学派というカントの『批判』が基礎づけた「二つの偉大な伝統」について駆け足で整理した後、自分自身の「哲学的な選択」について明瞭に語っている。最後にその箇所を引用して2017年最後の更新を終えようと思う。

それでは皆様、よいお年を。

現在わたしたちが直面している哲学的な選択とは次のようなものであると思われます。一般的な真理の分析哲学として提示されるような批判哲学を選ぶべきなのか、それとも、われわれ自身の存在論現在性の存在論という形態をとる批判的思考を選ぶべきなのか。そして、ヘーゲルからニーチェマックス・ウェーバー等々を経てフランクフルト学派に至る、後者の哲学の形がひとつの考察の形態を打ち立てたのであり、もちろん、可能な限り私もそこに加わりたいと思うのです。
フーコー『自己と他者の統治』P27

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